綿

いま助けてくれと叫んでも、その声は誰にも届かないだろう、なぜなら細く弱った喉にいっぱいの白い綿、綿みたいな白い憂鬱を、気道がかんぜんにふさがるまでぎゅうぎゅうにつめこんでいるからで、ある瞬間ぼくはふと我にかえり、息ができん苦しいなどと、ぐ…

植物の茎

よくわからないけどたぶん僕の感情の表面部分にはちょうど植物の茎の皮のようにすこしぶ厚くて緑色の防御壁があるのだと思う。それが剥けて感情のとろとろした中身がさらけ出されるとなんかもうだめ、どんな弱い刺激でも死にそうになるほど落ち込んでしまう…

ひとり暮らしの歌たち

ひとり暮らしをしていたときに作った曲を大声で歌っていたら、なんだか懐かしい気持ちになってきた。僕は4月末まで期間限定で姉の部屋を借りてひとり暮らしをしていた。23歳にしてはじめてひとりで生活をしたので、いろいろ困難とかもあったが(そういえ…

ゴールデンウィーク

さいきんものすごいいきおいでいろんな物語を呑み込んでいる。毎日毎日体内にとり込まれるそれらは胃のそこにどすんどすんともとのすがたのまま落ちていって、そのまま数日経っても消化されずにすこしずつ白くにごった澱のようなものへと変化していく。それ…

テンペスト

日ごろの研究の延長としてちょっと思うところがあって、シェイクスピアの『テンペスト』を読んでみた。僕は浅学なのでなかなか戯曲を手にとる機会なんてないから、わりと新鮮で記憶に残る読書だった。読んだのはちくま文庫の松岡和子訳。注が詳しくてよかっ…

躊躇い

いまのところ、僕の人生をもっとも強く規定する力は「躊躇い」だ、と思う。躊躇いは声を出すこと、手を伸ばすこと、その他もろもろの働きかけを阻害する。地味でいじわるな悪魔。僕は躊躇っているときの自分がすごく嫌いだ。ちいさくてたよりない。どうして…

運動のうちに

「われわれの本性は運動のうちにある。完全な静止は死である。」(ブレーズ・パスカル)おそらく君も僕も、この2週間くらいのあいだに、たとえ自分自身ではわからなくても、決定的に、どこかしらが変わってしまったんだろうな、と思う。

同人雑誌の妄想話

この前、ともだち3人と新宿で飲んだときに、「もし俺たち4人が同人雑誌をつくるならどんな感じにしたい?」って話をした。「いやもちろんあくまで『もしも』の話だぜ、だからべつに真剣に考えなくてもいいんだけど」僕たちはひとりずつコンセプトを言いあ…

やきもち

あまりよくは知らないけれどそれなりの好意を抱いているていどの個人から他人や特定の物事についての話をされると、僕たちは困ったことに妙な嫉妬や羨望を抱いてしまう。「ああこの人は自分のあずかり知らぬところでさまざまな関係性をつくっているのだなあ…

毒づくこと

僕だっていつもねばねばと暗いわけではない。こう見えて(どう見えているのかはわからないけれど)、わりとあっけらかんとしているタイプの人間だと思う。よく冗談を言うし、たまに他人のことを毒づいたりもする。そう、毒づき。毒づくにも技術が必要だ。で…

代替可能性

労働の、あるいは言論の場における、僕という存在の代替可能性(substitutability)。これくらいの働きをして、これくらいのことを言うような人間なんて、僕以外にもたくさん、山のようにいて、だからいまこの瞬間に僕という特定不可能なひとりの男(a man…

いつものように

ひきこもりです。一歩もうごいていない。自分でも信じられないくらいなにもできないなあ。

「俺」について

今日も今日とてギター片手に作曲をしていた。「俺のTシャツは水色だから/涙を見せてもかまわない」という歌い出し。そう、「俺」。我ながらどういう心境の変化か謎なんだけれど、さいきんなにか創作めいたことをするときの一人称が「僕」ではなく「俺」に…

雨の日

文体、どこまで意識化すればいいのかわからない。なかなかどうしてやっぱり難しいものである。とはいえ、なんとか作り上げたいとは思ってる。今年の目標のひとつ、だからね。大学通りの喫茶店は古くてすき。たばこの箱を出しただけで灰皿を用意してくれたり…

ひきこもり

今日は一歩も外に出なかった。部屋にこもってひとりで作曲をしていた。こういう行動って、まったく「生産性」なんてないし、じっさい今日は明日のためにやらなきゃいけないことをぜんぜんできなかったので、やばいくらいに向こう見ずなんだけど、まあそれが…

風の強い日

最近なかなか家の外に出ることができなかった。ベッドからでてシャワーを浴び、服を着替え、髪の毛もととのえたのに、いざドアの前に立つとなにかぼんやりとおそろしくなり、またベッドに逃げ帰ってしまうのだ。携帯の充電はずっと切れたままだったし、スト…

翻訳は大変

文学作品の翻訳は、任意の外国語についてはもとより、ある作家なり作品なりの語りの手法をふかく学ぶうえでも大変勉強になるため、僕にとっては一石二鳥で、ありがたく、たのしい、しかもそれはむろん文学研究の基礎でもあるので、けっして避けては通れない…

(創作)横浜駅にて

横浜駅の改札前を足早に歩いていると、ふいに肩を叩かれた。 反射的にふりかえったさきには、スーツ姿の知らない男のひとが立っていた。細いあごには無精ひげが薄っすらとはえていて、羽織っているダークグレーの背広はセール品らしくくたびれている。おじさ…

大学院の友人

小説なり詩なり、そういう作家的な活動をしている友人と、僕は大学院に入ってはじめて出会った。学部生のころは教育学部に在籍していたので、まわりにアート好きな友人などいなかったし、いわんや創作をや、という感じで、そういう趣味を分かちあうことの快…

この絵、

ダフィット・テニールス(子)の《聖アントニウスの誘惑》というらしい。かわいい。国立西洋美術館の常設展でみつけた。

水道

水道が止まった。 昨日の晩お風呂に入ろうと思って蛇口をひねったらお湯がでなくて、あれおかしいなとなり、でも水はでる、ということはお湯が止められたのだと思った。おそらく今朝家をでるときにシャワーを浴びたままお湯をだしっぱなしにして放置していた…

夢日記

2016.3.23ビニール袋に顔をかぶせて持ち手部分をきつく縛る。中くらいのビニール袋。そこから浮き出る口のかたち。わあわあいう声がくぐもって震える。なかなかうまく殺せない。焦り。じゅわじゅわ湧き上がった。2016.3.28夜中、友達と3人、歩く、僕にとっ…

目玉焼きとたまごの殻

目玉焼きをつくった。けっこう上手にできたぜーと思ってしばらくうれしかったんだけど、いやまあけっこう上手にとはいってもぜんぜん焦げちゃったり黄身まで白くなっちゃったりかたちも崩れたりで微妙なんだけど、とにかくとりあえず満足のいくレベルのそれ…

雨で散った桜について

今日は全国的に雨だったそうで、だから東京ももちろん雨ふりの1日で、大学通りのさむくて濡れた歩道のうえには散った桜の大量の花びらがびしょびしょと汚れて半透明になったりしながらこびりついており、踏まれてどろどろのそれらは僕が電車をおりるときに…

若い男たち

およそ僕のような若い男たちはみんな同じようにくだらない。優しさはけっきょく薄っぺらで、嘘ばかりついて、へらへらへらへら、どうせすぐ逃げ出すくせに、体裁だけは整えてて、見栄っぱりなところが透けてみえるのが大嫌い。だいたい僕たちには誠実さがな…

街の灯

もうずいぶん前のことのように思えてしまうけれど、そしてじっさいもうずいぶん前のことで、だからけっこう今さらなんだけど、今月の2日に恵比寿でALのライブを観たので、その話をしてみる。AL(「アル」って読むらしい)というのは、元andymoriのメンバー3…

(創作)労働

「ぶつぶつうるさい、黙って働け、金をかせげ」と僕のなかの監視がわめきたてる。あまりにもそれが毎秒毎秒続くため、しだいに僕は僕が言葉を発しようとするたびにひとさじの恐怖を感じようになってしまった。無意味さや無力さのねばつきを感じるようになっ…

冬の空気、あるいは『すべて真夜中の恋人たち』について

とうとう2月になってしまった。いちばん寒い時期だ。 せっかくだから腹式呼吸を身につけたいなあとか思っている。陽のあたる時間がみじかいせいで冷たくなってしまった冬の空気を、肺のうえのほうだけをつかって浅く吸ってしまうのではなく、おなかが膨らむ…

寂しさとエッセイ本について

寂しさが心のなかで膨れ上がると、それ以外のいろんな感情たちがぜんぶ窒息して死んでしまうような気がする。みんなそういうときどうするんだろう、って思った。そういうとき(というか今朝だったんだけど)、僕はほんとうに息ができないように感じるので、…

ケアンズ、オーストラリア

9月の半ばから終わりにかけてオーストラリアのケアンズへ旅行していた。 ケアンズは太陽の光が強い。日本の3倍くらいの紫外線量だそうだ。たしかに、それはほんとうに刺激的で、肌の上から違いを感じとることができるくらい強烈で、サングラスをかけていても…